PRIDE

焔の瞳

 試験会場に指定されたのは、軍の演習場の一つだった。一度思い立ったら最後、権力に物を言わせて強行する大総統閣下は、わざわざ試験のためだけにそこに家を一軒建ててしまったのだ。――その裏には、どれくらいの規模の物まで燃やせるかという問いに、若干十五の少年が生意気にも「どんなものでも」と答えたというエピソードがあったりするのだが。
「……多いですね」
 試験場に入ったホークアイがまず漏らした感想に、エドワードも目を見張ったまま同意した。試験の見学には滅多に足を運ばないため相場はわからないが、それでも会場を埋める見物人はエドワードの予想の倍くらいはあった。ともすれば、色々な意味で注目を浴びた自分の試験の時よりも多いのではないだろうか。どうやら軍のお偉い様方はよほど破壊錬金術が見たいらしい、とエドワードは渇いた笑みを口の端に乗せた。
 緊張感と、異様な興奮と、熱を孕んだ空気。視界を埋めるのは、目を射る鮮やかな青、また青だ。やわらかな空の水色も、透き通った湖の碧も好きだけれど、この青は嫌いだ。やさしさも、あたたかさも、爽やかさもなく、ただどこまでも青く、冷たく――重い。
 人並みを掻き分けて上座の方へ進んでいくと、すでに何人かの護衛に囲まれて大総統が腰を下ろしていた。まだ距離は離れているのに彼はエドワードに気づいて、柔和に微笑む。本音を言えば近づきたくもなかったが、自分に下された命は彼の身の安全の確保だ。
 一切の表情を消して進み出ようとして、だがそのエドワードの肩を引き留める腕があった。
「おい、お前、どこに行こうとしている?」
 振り返った自分の顔の前にぶつかったのは目の覚めるような青で、エドワードは反射的に上を振り仰いだ。自分のそれより頭一つ分高い位置にある瞳が細められて、こちらを見下ろしていた。
「ここから先は定められた方々がお座りになる場だ。見学なら他の場所で――」
「馬鹿、鋼の錬金術師だぞ」
 焦った声が後ろで聞こえ、エドワードを引き留めていた体格の良い軍人の腕が引かれる。身体半分を後ろに引っ張られながら、え、と漏らした彼は、押し合う人混みの中、隠れていたエドワードの肩の階級章を目の端に捉えて青ざめた。
「申し訳ありませんでした。北方の者で、お顔を存じ上げておりませんでしたので」
 後からやって来た軍人が同胞を後ろへ引っ込めながら頭を下げた。別に、とエドワードはそれだけ言うと、踵を返す。その声に顔を上げる若い軍人の眼が、一瞬冷ややかな光を走らせたのが、身を返す刹那、眼の端によぎった。
 ――大総統の、狗が。
 そう語る、その眼を見ることなどもう慣れている。














SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送