PRIDE

ACT12

「誰それ、彼氏?」
 ――ああ、この人准将の弟だ。
 玄関先で沈み込みながら、ロイはほとんど涙さえ感じて納得した。







 着いたぞ、という老憲兵の声に、うつらうつらしていたロイは顔を上げた。さかんに吠えたてる犬の声にぼんやりしていた頭が覚醒し、ゆっくりと視界が晴れていく。そしてようやく鮮明に形を結んだその家を、ロイは真上から指す光に目を細めて見上げたのだった。なるほど村で唯一の医者というだけあり、診療所も兼ねているらしい、辺りの家々より一回り大きな造りをしたその家の前では、珍しいことに片足を機械鎧にした犬が、エドワードの帰りを喜んでいるといったばかりに尻尾をしきりに振っている。
 太い道から家へと続く一本道に入る一歩手前で、ロイとエドワードは荷馬車から降りた。荷物を下ろし、送ってくれた老憲兵に礼を言うと、彼はほっほっほと独特の笑い方で笑って礼には及ばぬといい、またなと手を振った。がたごとと荷馬車を揺らしながらゆっくりと小道を下っていく老憲兵を見送っている間に、いつのまにか黒い犬が足下まで迎えにやってきていた。
「久しぶりだなー、デン」
 エドワードが身をかがめて頭をわしわしと撫でてやると、犬は聡明そうな真っ黒な瞳で彼を見上げて、わうっと一度吠えた。まるで言葉を解しているかのようなその応えに、エドワードはくしゃっと子どもっぽく笑って、そして顔を上げた。
 ウッドデッキには犬の鳴き声を聞いて出てきたのだろう、一人の青年が立っていた。遠目にははっきりとはわからないが、エドワードのそれよりもいくぶんやわらかな色味をした金髪の、髪の短いすらりとした青年だった。彼が弟だろうか、とロイは考えながら、荷物を引っ提げて歩き出した上官の後を追う。
 顔が分かる距離まで近づくと、ロイはいっそう興味深くその青年を見つめた。歳の格好からいってエドワードの弟と見てまず間違いはないはずで、事実、彼の纏う金色はエドワードと血のつながりを示しているのだが、雰囲気がまるで違う。エドワードの放つのが鮮やかな煌めきで目を射す夏の朝日だとしたら、青年の持つ色はやわらかな春の日差しだった。
「おかえり、兄さん」
 そう言った声も穏やかで、想像していた人物とずいぶん違う青年に、ロイは軽い驚きを覚えた。階下に立ったエドワードが表情をやわらかくくずして、一言ただいまと告げると、青年はいっそう優しく顔をほころばせた。
 そして青年は、エドワードの後ろに立つロイに気づいてちょっと目を見張った。ぶしつけな視線が失礼にあたっただろうかと、ロイはあわてて挨拶をしようと身を正したのだが。
 次の瞬間、視線を兄に戻した青年によって放たれた言葉とその衝撃を、彼は生涯忘れないだろう。














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