ようこそ中央司令部へ



「しょうしょーっ! 金髪美人の副官来たってマジっすかぁ!」


 突然、ばぁん!と豪快に開け放たれた扉に、室内にいたエドワードとロイは驚いて振り返り、そしてあんぐりと口を開けた。
 いったい何事かと見やれば、扉の向こうにはくわえ煙草の長身の金髪中尉以下、ロイの部下達が連なっていた。興味津々、といった様子で、室内を伺おうと団子になって後ろからひょこひょこ頭を出しているのは(しかも先頭の金髪中尉の背が高すぎてろくに見えていない)、お前ら本当に大の大人かと突っ込みたくなるさまである。


 一瞬、あまりに意表を突かれて固まったものの、さすがに我に返るのはロイの方が早かった。いくら付き合いが長いとはいえ、部下にあるまじき無礼千万な行為に、額を抑え、呆れて息を吐く。

「……ハボック、ノックくらいしろ」

 腹が立つとか言うより何より、この光景は情けなさすぎる。しかし腹心の部下一同は、入室許可も待たずにぞろぞろと入って来ながら、黒髪の上官とその隣に立った小柄な人物とを交互に見やって、いけしゃあしゃあと答えた。

「いやあ、俺達としては、上司のイケナイ場面に遭遇できるかと期待してたんですけどね」

 残念だったなあと、さも落胆したようにハボックが呟く。まさに先ほどまで『イケナイ場面』を繰り広げていた当の二人は、その台詞にぎくりとして目を合わせたが、運良くそれは気づかれなかったようだ。まったく早々に理性を飛ばしていなくてよかったと、ロイが内心胸を撫で下ろしたのは、エドワードにも秘密である。


「馬鹿なことを言ってるんじゃない。来客中だったらどうするつもりだ」
「はいはいすいません。で、そっちが噂の?」

 上司の叱責はさらりと流して、ハボックはロイの隣に立った小柄な金色の人物に近づいた。ブレダとファルマン、フュリーがそれに続く。

(うわ、こりゃまた……)

 頭の天辺から足の先までまじまじと眺めて、ハボックは感嘆した。金髪のとんでもない美人がマスタング少将の執務室に入っていったという、これ以上ないくらい面白そうな噂を聞きつけたものだから、そいつはまさしく例の新しい副官だろうとふんでやって来たのだが――

(なるほど、確かに噂は嘘じゃなかったみたいだな)

 こういう類の噂は得てして誇張されて広まりやすい。しかし、「ほんとに軍人とは思えないくらい綺麗な方だったんですよ!」と興奮して語った部下の言葉はどうやら真実であったようだ。
 高い位置でくくられ癖のひとつもなくさらりと背に流れた金髪は、やわらかな光の束を集めかのように煌めいて、透き通った白い肌に映え。その顔を覗き込めば、半ば伏せられた蜂蜜色の瞳は淡くけぶる長くて繊細な睫に縁取られていて、なるほどこれは滅多にお目にかかれない美人だと確信する。

(あれ、でも、この色、どこかで……?)

 ふと、何かが引っかかったような気がしてハボックは動きを止めた。すると、それまでうつむいていたその人物が顔を上げ、ゆっくりと瞼を持ち上げた。猫を思わせる大きな金の瞳がすうっと細められて、形の良い赤い唇に不敵な笑みが引かれる。途端、がらりと身に纏う空気が変わって、瞳に点った悪戯な光に、ハボックは雷に打たれたような衝撃を覚えた。



 ――この、眼。この色。そう、自分は確かに知っていたのだ。








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